ERPの「外側」にある競争優位を、誰が実装するのか
Formulaがなぜ存在するのか。ERPでもSaaSでもなく、なぜFormulaなのか。
自分の中でようやく言語化するに至ったので、それを一枚の図で説明する。業務プロセスを「レイヤー」で分解する考え方だ。今日はその話をする。
業務には「層」がある
ある業務プロセスを横に分解してみる。たとえば「購買見積」なら、作成 → 送信 → 比較 → 合意という業務プロセスの流れがある。見積書を作り、サプライヤーに送り、回答を比較し、条件を合意する。
次に、そのプロセスを縦に分解する。同じ「作成」でも、中身の複雑さ・独自性は企業によって全然違う。
- レイヤー1 ― 見積書のフォーマットを埋めるだけ。どの会社でもやる標準作業。
- レイヤー2 ― 作成前に、過去の取引実績を調査し、社内でブリーフィングをかけている。
- レイヤー3 ― 見積を比較するとき、価格だけでなく、自社独自の評価軸で多面的に比較している。
- レイヤー4 ― 合意に至るまでに、自社固有の承認フロー、例外判断、部門横断の調整が走っている。
この「縦の層」が、すべてを決める。
| 作成 → | 送信 → | 比較 → | 合意 | |
|---|---|---|---|---|
| L1 標準 | ERP | ERP | ERP | ERP |
| L2 | 調査・ブリーフィング | ― | ― | ― |
| L3 | ― | ― | 独自比較ロジック | ― |
| L4 | 固有の承認フロー | ― | 多面評価 | 部門横断調整 |
レイヤー1はERPの仕事
レイヤー1は、どの企業でもやる標準業務だ。見積書を出す。請求書を受ける。在庫を記録する。これは「法規制対応のために生まれた」領域であり、正確に記録することが目的だ。
ERPは、まさにこのために存在する。System of Record。記録の正本を持つシステムだ。SAPが世界中の企業に導入されてきた理由は、この標準業務を正確に、確実に、安定して回せるからだ。
レイヤー1をERPがやること自体は、何も間違っていない。
問題は「レイヤー2〜4をERPでやろうとする」こと
自社独自の比較ロジック、調査プロセス、承認フローを、ERPのモジュール拡張でやるべきではない。
なぜか。ERPは低位標準化のソフトウェアだ。標準プロセスに業務を合わせる思想で設計されている。「誰がやっても同じ結果になるべき業務」に最適化されている。
しかし、レイヤー2〜4は違う。ここは「企業が独自のやり方をしているからこそ、それが競争優位を生んでいる」領域だ。独自プロセスであることそのものが、価値の源泉なのだ。
これをERPの標準モジュールに押し込めると、二つの問題が起きる。一つは、カスタマイズの保守コストが膨れ上がり、アップグレードのたびに地獄を見ること。もう一つは、もっと本質的な問題だ。自社の強みの領域まで低位標準化に合わせてしまうことで、競争優位性そのものを失う。標準化すべきでないものを標準化してしまうのだ。
SaaSでも解けない理由
ではSaaSはどうか。「レイヤー1がERPなら、レイヤー2〜4をSaaSでやればいいのでは?」と思うかもしれない。
しかし、この領域がSaaSで埋まるほど、エンタープライズの業務はシンプルじゃない。SaaSで埋まるほどだったら、もう取られている。取られているか、市場として小さいかのどちらかだ。
エンタープライズの独自業務領域は、企業ごとに違いすぎて、汎用的なSaaSでは吸収しきれない。これはA00が見ている世界と同じだ。
Formulaは「オーバーレイ」である
ここまでの話を踏まえると、Formulaのポジショニングが一つの図で説明できる。
コード化・システム化する
Formulaは、ERPを置き換えるのではない。ERPの上にオーバーレイとして乗る。
ERPからは元データをもらう。独自業務のオペレーション(調査、比較、判断、調整)はFormulaで行う。完了したデータだけをERPに戻す。途中経過の「遷移」はERPに渡す必要がない。
これが、PortXが「競争優位そのものを実装する」と言っている意味だ。レイヤー1(標準業務・記録)はERPに任せ、レイヤー2〜4(独自業務・競争優位の源泉)をFormulaで実装する。
なぜ今なのか
「そんなの昔から分かってたことじゃないか。なぜ今までやらなかったのか」
答えはシンプルだ。今まではコストが高すぎた。
レイヤー2〜4は企業ごとに違う。個別に設計し、個別にコードを書き、個別にテストし、個別に運用保守する必要がある。従来のSIではそのための知的作業コスト(要求整理、設計書作成、仕様の構造化、変更影響の追跡...)が膨大だった。だから結局、ERPのモジュール拡張という「無理な選択肢」を取るか、独自開発に何年もかけるしかなかった。
LLMがこの知的作業コストを大幅に下げた。そして、Formulaがそれを「実務として成立させる基盤」に変えた。
要するに、今まで「高すぎてERPに押し込めるしかなかった独自業務」を、現実的なコストでシステム化できるようになった。それがFormulaのWhy Nowだ。
独自プロセスは「バグ」じゃない。「強さ」だ
ERPベンダーやコンサルは、よく「業務を標準化しましょう」と言う。それ自体は、レイヤー1の話としては正しい。標準化できる部分は標準化すべきだ。
しかし、レイヤー2〜4に残っている独自プロセスを見て「これは非効率だから標準化しましょう」というのは、的外れなことがある。その独自プロセスこそが、その企業の強さの源泉だからだ。
大手製造業が長年かけて磨き上げてきた、自社独自の調達評価、生産調整、在庫判断、配車ロジック。それは「ERPに合わせるべき非効率」ではなく、「コード化して磨き上げるべき競争優位」だ。
Formulaは、その競争優位をコード化するために存在している。
ERPを本当に理解している人は、ERPの「外側」があることを知っている。全部を自分たちでやろうとするのは、低位標準化のソフトウェアを理解していない証拠だ。
その外側にこそ、顧客の競争優位がある。PortXは、その外側を実装する会社だ。
ERPがない領域でも「層」を分けて考える
ここまでERPとFormulaの棲み分けを話してきたが、もう一つ重要なことがある。
実際には、ERPが入っていない業務領域もたくさんある。全部がSAPで管理されている企業の方がむしろ少ない。
その場合でも、この「レイヤーで分けて考える」思想は同じだ。Formulaで業務をシステム化するとき、L1(標準的な記録・処理)とL2〜L4(独自の判断・ロジック)を分けて設計することが重要になる。
なぜか。L1は将来ERPやSaaSが入る可能性がある。あるいは他システムとのデータ連携が必要になる。そのとき、L1とL2〜L4が混在した設計だと、切り分けられなくなる。最初から層を分けて設計しておけば、L1の部分をERPに委譲することも、L2〜L4だけを磨き続けることも、柔軟にできる。
つまりFormulaでシステムを作るときも、「ここは標準的な記録処理」「ここは独自の競争優位ロジック」と意識的に分けて設計していく。この考え方こそが、Formulaで正しく業務をシステム化するための設計原則だ。
この記事のまとめ
- 業務には「標準的な層(L1)」と「独自の層(L2〜L4)」がある
- ERP(SAP等)はL1、つまりSystem of Recordとして最適。ここに独自業務を押し込めると、コストが膨れ上がり、競争優位性を失う
- SaaSも、エンタープライズの独自業務をカバーするにはシンプルすぎる
- Formulaは「ERPのオーバーレイ」として、独自業務=競争優位の源泉をシステム化する
- ERPがない領域でも、L1とL2〜L4を分けて設計することがFormulaの設計原則
- LLMの登場で知的作業コストが下がり、この個別実装が初めて現実的になった(Why Now)